「共謀罪法」の廃止を 小菅敏夫
今年3月安倍内閣は、国会に「組織的な犯罪の処罰および犯罪収益の規制等に関する法律などの一部を改正する法律案」を提出しました。この法案は、過去三度国会に提出、いずれも廃案となった「共謀罪法案」と同じ内容でした。この法律案の目的について、政府は、「テロ等準備罪」を処罰するものだとし、首相自ら2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催のために国会での可決が必要と説明しました。
しかし法案中には何らテロに関連した条文がない。それは元の共謀罪法案は、国連国際組織犯罪防止条約加入のためでテロとは関係なくマフィアなどの犯罪対策用の条約だからです。テロ対策のための諸条約が、作成され、日本もすでに国内法を整備し加盟しています。しかし政府は、国民からも多くの反対の声がありながら衆参両議会での十分な審議を経ず、いずれも強行採決をして6月15日に成立、21日公布、7月11日施行日としました。この共謀罪法は、組織犯罪の計画をその段階で処罰するもので、「実行準備行為を伴う組織的犯罪集団による重大犯罪遂行の計画」を共謀罪としています。日本法にはなかった「実行準備行為」の概念がこの共謀罪法で初めて取り入れられたのです。日本は、前から犯罪の発生や危険性を処罰の根拠としてその犯罪の既遂、未遂、予備を時間的に遡り処罰することを体系的にしてきています。
しかし、新しい「実行準備行為」は、そのような危険性を要件としていないので、日常の行為も該当します。犯罪の準備行為か、普通の日常行為かの区別は、わかりません。違いはその人の内心にあるのです。共謀罪は人の内心の処罰と言われる所以です。キリスト者の信仰、祈りや願い等あらゆる内心行為が「実行準備行為」に当たるのであれば、人の内心の部分だけが処罰根拠であることになります。このように「組織的犯罪集団」「計画」「実行準備行為」のいずれも処罰の範囲の限定になっていないことから、ある人が組織的犯罪集団に入っているかは、その都度、捜査機関が判断するので、一般の人々が処罰対象にならないとは言えません。
共謀罪の施行日から、共謀の疑いをかけられた捜査が可能になります。犯罪とは考えられない行為が捜査されたり、人が集まって話し合っているだけでも容疑者とされる可能性が起こります。通信傍受の対象犯罪が大幅に拡大され、共謀罪が新設されて、ネットワークによる市民の日常の情報のやり取りが傍受される可能性は高いのです。共謀罪の摘発の必要性による盗聴などの捜査権限の拡大に懸念があります。さらに監視や密告が奨励される社会にならぬように共謀罪法の廃止を願い祈ります。