尊厳(Dignity) 荒川 朋子(アジア学院校長 日本基督教団 西那須野教会員)
先月私の勤めるアジア学院で、尊厳(Dignity) についてのワークショップを、日本に長く住むアメリカ人宣教師の方にやっ ていただいた。
「尊厳」は辞書で「尊くおごそかで、犯しがたいこと」とあるが、今回教えていただいた尊厳の概念は、世界各地の紛争 解決に携わってきたDonna Hicks というアメリカの精神科医の提唱するもので、Hicks は「尊厳」をより深く「生きるも のすべての生来の価値と弱さ(もろさ)を認めて受け入れられることから来る、内面の平安」と定義している。彼女は世界 の様々な紛争の現場で、知識も経験もある大人がいくら対話を試みても問題の解決に至らない状況を経験して、言葉で現 わされないノンバーバル(非言語)の側面に注目し、「人間を理解するうえで重要なのは、一方で人は価値のない者として 扱われることに弱く」その状況で自己防衛的になるのに対し、「もう一方では尊厳を認められると安心感を与えられる」と 分析し、「尊厳理解は人間の内なる力につながっている」と強調した。
日韓の対立、香港での抗議運動、一六歳のグレタさんの地球温暖化への大人の無策と無責任に対する怒りなど、今世界 で起きている問題も尊厳の観点から見ると、当事者たちはみな尊厳を深く傷つけられていることがわかる。つまり自身の もつ価値も弱さ・もろさも理解されず受け入れられないで、内なる平安が破壊されている状態である。そして他者の尊厳 を踏みにじる行為は、踏みにじっている者自らの尊厳をも賎しめる結果になるというのだから、対立する双方で尊厳の低 下が起こるという、痛ましい事態が進行しているのだ。
問題の解決は、その傷ついた尊厳を回復することで可能になると、Hicks はその様々な方法を紹介するのだが、彼女は さらに人間は自らを教育し、尊厳を大事にする「文化」を自ら創出することができると希望を与える。その文化は、尊厳 の深い理解を基に、個人や組織の最善の部分を引き出し、人間の営みをより高いレベルへと発展させていくことができるというのだ。文化は一人では創り出せない。自分と他者と、そして自分を超えた周りの世界とのつながり、つまりコミュ ニティーの中で形成されていく。
さて百歳を迎えた共助会というコミュニティーはどうであろうか。互いの尊厳を高め合う新たな文化を創り出すことが できるであろうか。私は、キリストの他自由独立、主に在る友情を謳う共助会は、その土台をすでに備えているように思う。神の前にまた歴史の前に常に謙虚にあって、国境をも超えて愛と友情を分かち合い、それぞれの人格と尊厳が輝くコミュニティーを、神様はきっと必要とされ、存分に活かしてくださるのではないかと思うのである。