寄稿

コロナ禍での佐久学舎開催にあたっての諸注意 感染管理人 山本 眞実

はじめに

佐久学舎は2020年と2021年はコロナ禍で危険と考えたためお休みでした。2022年の開催をどうするかは困難な課題でした。2021年度の延べ参加人数は40人以上となっており、全期間は参加できないけれども、1泊だけでもとか、半日だけでも参加したいという方も多く、それはそれで貴重なことでした。しかし、人の出入りが多ければ多いほどウイルスの出入りも多くなるわけで、これまでと同様の開催はあり得ないということは、世話人共通の考えでした。新型コロナ感染が病床を圧迫しない「普通の風邪」となるまでにまだ10年はかかると京都大学の西浦教授は述べておられ、それまでは今のままの日本の対策では沢山の高齢者死亡を覚悟しなくてはならないと言われています。もう未来永劫佐久学舎再開は無理なんじゃないのか……川田先生と綾子さんが佐久でお元気だからなんとしても開催したい……どのようにすればゼロリスクは無理としてもリスクを最も少なくして開催できるのか……とずっと考えてきました。

私は香川県琴平町という人口9千人弱の小さな過疎地域の耳鼻咽喉科の開業医です。周りに耳鼻科が少ないこともあり、たくさんの0歳児から高齢者までを診察しています。患者さんの半分は小学生下です。2020年1月に日本に新型コロナウイルス感染症が入ってきた時に、大阪で開業医の感染死が複数報告されたことがあって以来、多くの医院が「発熱患者お断り」の張り紙をしました。県外から来る人もダメ、同居家族が県外に2週間以内に出た人もダメなどといったため息がでるような診察拒否が近隣でも見られました。こうした診察拒否の問題の背景には、開業医の高齢化の問題もありますが、発熱患者さんを自分のところで診ずに全て大きな病院に行かせるのも、大病院で働く人たちの過酷な労働を知っているだけに違うのではないかと考えていました。特に小さな子どもの発熱を小児科の開業医が断るという事態に対しては、やるせない怒りと悲しみを感じました。結局私の医院は発熱中の人も、県外からの人も(徳島県は近い)、海外から帰国直後の人も断らないことにしました。

パソコン越しのリモート診療を行っている医師もいますが、耳鼻咽喉科では誤診の山ができそうなので私はしません。新型コロナのことは知らないから皆、余計不安になると考えて、2020年3月から月に1~2回昼休みにコロナについての勉強会を私と事務職員2名と看護師3名で始めました。年齢ごとに異なる重症化率、ワクチンの効果と副反応、種類別マスクの有効性、抗原定性検査とPCR検査の違い、検査の機器の扱い方、コロナ後遺症について、これからの感染状況の見通し、ころころ変わる行政による隔離期間などいまだに勉強会をやり続けないと渦の中でおぼれてしまいそうです。勉強することで職員のモチベーションが上がり、この困難な時を一緒に働く力が与えられたと思います。

2022年7月以降のいわゆる第7波は最大の人数を記録し続ける感染状況でした。そろそろピークかと思っていても感染者数は上り続け、佐久学舎開催は本当にピークと重なりました。私は佐久学舎の感染管理人としてどんなに嫌われても医療技術者として「川田先生ご夫妻の感染を防ぐ」ということを大事にしようと考えました。

参加条件として佐久学舎に参加する前には3回のワクチン接種を済ませる(それが無理な場合は応相談)。佐久へ出発する直前に全員PCR検査を受けて参加する。それが無理な場合は佐久学舎でPCR検査を受ける(検査機器は自分の医院のものを車に積んで持参)。期間中の人の出入りを極力抑えるために全員全期間参加とする。

佐久での最初の晩のミーテイングで話したこと。

⓪感染管理は人権侵害と紙一重である。外国の例など枚挙にいとまがない。

①2022年6月までは感染対策をきちんとすれば医療従事者の感染はほとんどないので「プロは感染しないものだ」という感覚を多くの医療従事者は持っていた。しかし、2022年7月から大病院のコロナ病棟の感染対策のトップの医者が感染し、病棟の看護師も次々と感染してベッドは空いていても入院が受け入れられなくなってきていると話題になっていた。オミクロン株BA―5が日本に入ってきていて、東京では50%以上の割合である。このタイプは感染力が強く、また感染拡大のスピードが速い(潜伏期間が1~3日と短い)と警告が専門家より出されていた。7月初旬から毎週数倍になる感染者の急増がありながらも「暑いからマスクを外してよいキャンペーン」があり(マスクで熱中症が増えるかどうか科学的検証がなされたことは自分の知る限りない)、政府の「社会生活は制限しない方針」の宣言を経て7月末から8月中旬日本は日々世界で最大人数の感染者と死亡者が出る国になっている。

②8月12、13日自分の医院で受診した大人の発熱患者さんの9割がコロナ感染だったけれども、「クーラーのせいかもしれない」「夏風邪を孫からもらったかもしれない」「草刈りして肩がこったからかもしれない」など色々言いながらコロナの検査は希望しないと言う人が多い。これが、まさに正常バイアス(自分にとって都合の悪いことは無視したり、過小評価したりする傾向)。しかし、コロナに関してはまず人との接触を止めること。そして検査。「今までの対策で感染しないで大丈夫だったから」ということをワクチン接種をしない人たちからよく聞くが、今まではそれで大丈夫であったかもしれないが、だからと言ってこれからも感染しないという保証はない。大丈夫でなくなる日までは皆大丈夫なものだ。

③検査について。検査を要求しておきながら申し訳ないことではあるが、意味があるのは陽性のみ。陰性は「今日の検査は陰性と出た」というだけで感染していないことの証明ではない。PCR検査は精度が高いとされるが、最も陽性的中率が高いのは発熱2日目で80%陽性と出る。(20%は見逃す。)その前後の期間はさらに見逃す可能性が高い。抗原定性検査はさらに精度が低い。抗原定性検査は無症状者の感染の有無のチェックには不適切と厚生労働省のHPに2年前より記載されている。鼻の奥→鼻の入り口→唾液の順にウイルス量が減っていく。

④佐久学舎での感染対策 

自分は無症状の感染者であると考えていただきたい!「一人も濃厚接触者がいない生活」をする(濃厚接触とはお互いマスクを外して1m以内でかつ15分以上の接触)。飛沫感染対策が最重要。飛沫は2mは飛ぶ。逆に2m以内に人がいなければマスクする必要はない。食事・おやつ・お茶の時間が最大のリスク。女性は食堂棟の2階の自室にて一人で食事する。男性は食堂棟1階で2mずつ間隔を開けて黙食の行。食べ終わってからマスクして話すのはOK。残念だけれども川田先生ご夫妻と食事は一緒には食べない。もしも感染者が一人もでなければ、最終日の晩御飯からは川田先生ご夫妻と全員一緒に食堂で食べたいと考えている。

⑤不織布マスクは基本常時着用。息苦しくて外すのはOKだが、できれば人と距離を取る。食事の前に手を洗う。丁寧な手洗いまたはアルコール消毒。頻回の環境消毒は非現実的。

⑥感染対策はグラデーション。ゼロリスクは無理。ゼロリスクは無人島で一人暮らし。最大のリスクはマスクなしで沢山の人と大声で話す、騒ぐなど。「讃美歌を歌う、ちょっとだけ歌う、歌わない」「屋外で話す、屋内で話す」などリスクを考えて必要な判断をしてほしい。感染者が出たとしても誰のせいでもないし、PCR検査も何回でもいつでも可能。

おわりに

この文章を書いているのは2022年10月です。振り返ってみて、佐久学舎は期間中コロナ感染者も体調不良者も一人もなく、無事終了しました。多くの方が参加したかったのに厳しい感染管理人のせいで参加できなかったのではないかと心苦しい思いです。聖書はいつでもあるし、その気になればいつでも読めるはずなのに、あの佐久学舎の緊張と楽しさは何なのだろうと改めて思います。それは自分が学生の時と何ら変わらないのです。

50代後半の私が20代の学生さんにも「まみさん」とか呼ばれて、全く友達す。川田先生には「僕はもうじきいなくなっちゃうから、佐久学舎はあと京都でやったらいいよ~」とまた言われてしまいました。しかし、帰り道に立ち寄った京都の夜の暑さにびっくりし、是非夏に涼しい佐久で聖書を読む機会をずっと許される限り続けたいものだと新たに思っています。

(日本基督教団 北白川教会員)