巻頭言

69回目の憲法記念日と緊急事態条項(2016年4号)〜小菅敏夫

今年の憲法記念日は、全国各地で護憲、改憲、加権等の催しがもたれた。特に2015年9月19日に安全保障法制関連法が国会参議院で強行採決され、今年の3月末に施行になったことから、憲法改正をめぐる国民の関心は高まって、各地の憲法記念日の集会はいずれも多くの参加者であふれていた。集団的自衛権の行使を安倍政権が閣議決定したことを契機に、立憲主義をないがしろにする政権に対する危惧を持つ国民が声をあげ反対の意思を示し始めてきた。

憲法九条を改正することが国民のアンケートなどでの調査で反対が多いことや憲法上手続き的にも国会両院の三分の二以上の議員による改正の発議が不可欠になり、今年7月の参議院議員選挙を安倍政権は、憲法改正への重要な第一段階としている。憲法九条の改正をに掲げることをせず、自民党憲法改正草案にある「緊急事態条項」を改正に取り上げている。草案の九八条で「緊急事態」を定義している。「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱などによる社会秩序の混乱、地震などによる大規模な自然災害その他の法律で定める事態」としてまず戦争や内乱が挙げられている。しかし草案の説明では、東日本大震災のような自然災害に重点を置いたものになっており、戦争や内乱などの社会秩序の混乱を自然災害と並べるのは、国民を欺くものではないか。「緊急事態条項」とは、国家緊急権ともいうことが出来るが、「戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害等平時の統治機構では対処出来ない非常事態において国家の存立を維持するために国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限」と言われている。

災害対策と国家緊急権とは関係がないことを私たちは理解することが大切である。自然災害の対策には、日本には既に災害対策基本法等の法律がある。緊急事態条項の本質は、国家の存立のために憲法の効力を停止することにある。緊急事態条項が発動される可能性があるのは、日本が戦争に巻き込まれる事態であろう。集団的自衛権の行使が行われることが緊急事態条項であり、憲法の停止である。緊急事態条項が憲法違反の「安全保障法制」の発動と連動するものであるから、緊急事態条項も憲法違反であり、憲法上認められない。

 

安倍政権が改憲に向けての姿勢を強め、何が問題でどのように変えるかについて国民に客観的にかつ具体的に明らかにし説明をすることをしなければならないが、いまだに、安全保障法制の内容の説明不十分と同じように、責任を果たしていない。今年の憲法記念日新聞世論調査の結果で、改憲、九条改正及び安全保障法制に対しいずれも反対が賛成を上回ったが、これから一層強まる憲法改正への動きに対し、主権者である私たちの護憲の活動を粘り強く取り組む必要があるのではないか。主にある平和をいのりつつ。