世界一周記 ―ピースボートの百五日間の旅(前編)― 豊田キヨ子
世界各地の戦跡を見聞きし、どうすれば争いのない社会に 生きていけるのか、そのために、どんなことが出来るのか、様々 な国々の方々との草の根の交流が出来ることを目指して私は ピースボートの旅に出ました。
二〇一四年七月の小雨煙る午後横浜港を船で発ち、約10日 間でハワイのホノルルに着きました。ハワイといえば観光地 ぐらいとしか思っていなかった私は、まず沖縄と似た歴史や 文化を持っていることを知らされました。よく知っている「アロハ」は先住ハワイアンの言葉で「今この場にある幸福を共 に分かち合う」という意味と聞きました。また愛媛県の宇和 島水産高校の練習船がアメリカの潜水艦に沈められましたが、 現地の人たちが建てて下さったそのメモリアル碑を公園で見 ることができました。パールハーバーには、数々の軍事基地 が点在している他、沈没した戦艦などの戦跡を見ました。太 平洋戦争が始まる前には日本とアメリカのクリスチャンの間 で何とか開戦をくいとめようとした動きがあったことは賀川 豊彦の百周年記念展示会の時に知りました。このような戦跡 は以前訪れた中国の盧溝橋で、橋の袂たもとにある抗日戦争記念 館でも見ることができました。何年か前にパプアニューギニ アを訪ねた時には、現地の子どもたちが「さらばラバウルよ ……」とラバウル航空隊の歌を日本語で歌っており、そここ こに、まだまだ戦争の歴史が延々と続いていることを知らさ れました。またハワイは防災・減災のまちづくりでも進んで いることも知りました。
洋上を更に10日間ぐらい移動して着いた中米のエルサルバ ドル(スペイン語で救世主)は1980年から12年内戦で8万 人も殺され、訪れたカテドラルには、時の政権に反抗して殺 された神父の柩があり、その建物の正面には日本人が作った キリストの像がありました。続いて訪れたニカラグアではソ モサ独裁政権を市民革命で倒したという道のりを辿り、元監 獄や元要塞、そして激戦地となった場所を当時の司令官だっ た方の案内で説明を聞きました。とても親日的な国でした。 でも、貧しい国ですから船内で働いている女性たちの中には 小中学生のこどもを残して出稼ぎに来ている人もいました。 太平洋を離れて大西洋に向かうパナマ運河ではそれをつくる ために働いた日本人技術者たちの話を聞くことができました。日本人はどこででも優秀な技術を駆使して他国の役に立って きていることを知り、誇らしい思いを持ちました。カリブ海 を経て赤道直下のブラジルのベレンに行きました。ベレンと いう名前はベツレヘムから来ているということを小耳にはさ みました。ベレンでどうしても食べたかったアサイのアイス をたっぷり頂き、植物園を散策して出会ったブラジルの子ど もたちと片言のポルトガル語で交流したのでした。NGOエ マウス共和国運動の場所を訪ねた時、子どもたちはエコで自 立できるやり方を学んでいました。そこここで日本人の実績 を知ることができました。
この後、エボラ熱発生のため入国出来なくなったセネガル を通過してベレンから大西洋を10日ぐらい渡るとスペイン領 グランカナリア島ラスパルマスに着きます。ここには何とヒ ロシマ・ナガサキ広場と名付けられた広場(テルデ市)があり、 日本国憲法九条をスペイン語に訳した文字が刻まれているき れいな小さな碑がひっそりとあります。1982年にスペイ ンが北大西洋条約機構NATOに加盟した際、テルデ市議会 はそれに異議を唱えて、非核地帯を宣言し、その動きの中、 日本の平和憲法がテルデ市やテルデ市民の指針となったとい われています。1996年憲法九条の碑が戦争犠牲者の追悼 と平和・非核を祈って建立されました。私はこういう動きが 日本の各地にも起こればいいなと願っています。口で守ろう というだけでなく、小さくともこういうことを形に残してい くことで伝わっていくのではないかと思っています。
日本国憲法 98 条には「この憲法は、国の最高法規であって、 其の条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他 の行為の全部または一部は、その効力を有しない。」また 99 条 には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他 の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と書か れています。国の省庁や地方自治体の間に上下関係があり、 国が決めたことは全部聞かなければいけないという絶対権限 を国や内閣が持っているのか疑問です。どこにそういうこと が書いてあるのか、最高法規である憲法をないがしろにした 政府でも許されるものなのか、これが民主国家なのか、国民 は選挙以外に決定権はないのか、意思表示の方法はないのか。 戦争を止め、原発を止める手立てはないのでしょうか。本来 民主主義は、少数意見を大事にして、多数決で決めると言わ れています。私たちは政府に白紙委任しているわけではない のに、現政権のやりたい放題、国民の声を無視したような政 治はファシズムと思えてきます。日本を愛し、未来の子ども たちのために出来ることは何なのでしょうか。(続く)