読書

『世界人権宣言の絵本 みんなたいせつ』を読んで 角田 芳子

まず、表紙の何とも言えぬ子どもたちの笑顔をご覧いただきたい。ゲームか何かをしているところであろうか。この笑顔が、現在、地球上の人々にあるかというと、大いに疑問である。

第2次世界大戦後、1948年12月10日に国連で採択された「世界人権宣言」とは、いったいどんな内容だったのか。問い直し、改めて自分自身や周囲の人々が持っている人権を再確認するのには、分かりやすく良い本だと思うのである。第1条(自由平等)から第30条(権利と自由に対する破壊的活動)その1文1文が、実に味わいがある。

さて、本書の著者である東菜奈氏は、私がミッションスクールである聖学院小学校に着任した年に、3年生で担任した教え子である。現在は、クリスチャン(カトリック)となり、あしなが育英会の会長室秘書の重責を果たしつつ、子育て、本の執筆もこなしている、頑張り屋さんである。今までに「行ってみたいあんな国こんな国」シリーズ(全7巻)など多数の本を出している。そして、今回の絵本は、海外作品も含め53冊目だそうだ。私は彼女の作品は、新聞記事であっても、童話・随筆でも楽しんで読んでいる。特にその分析力には脱帽で、作品ごとに感心しているのである。彼女は小さい頃から生き物が大好きであり、特に蝶が好きであった。自宅のある中野から毎日虫籠に、さなぎを入れ学校のある駒込まで大事に運んだのである。その時の担任とのやり取りは、紙面の都合上ここでは、割愛させていただく。が、その彼女がさなぎから蝶に変身し世界でも羽ばたいているように、私には思えるのである。普段は細かく色々と周囲を気遣うことができる優しい母である。今から8年前、私が軽い脳梗塞で倒れた時も、何くれと気を配り銀座で映画を見て、食事にさそい気分転換をしてくれた。

「日本のいま 差別と人権」で、6人にひとりが貧困生活を送り、多くの子どもやおとながいじめや差別を受けている現実にスポットをあてている。幸福度が1位フィンランド、ずっと間が空いて156か国中、日本は56位。貧困の割合・いじめ・教育格差・働きすぎ問題・自殺についてコメントを書いている。ここまででも胸が締め付けられる日本の現実である。さらに、絵本を仕上げた「あとがき」へと進む。平易な言葉で綴られた文章であるが、これを読んだとき、涙がとめどなく流れてきた。まるで、キリスト教教育のまとめのような「あとがき」をまとめてくれた作者に感謝いっぱいになった。教師生活の集大成のように感じた。毎日の祈りの中で「光のように、歩め」との聖書のみ言葉を知っているではないか。事柄を分析してみると、事態の深刻さが手に取るように分かるが、諦めてはいけない。「いろいろな年齢の、いろいろな人がいて、ひとりとして同じではないからこそ、社会は機能するのです。ひとりひとりが唯1の存在であるということにおいて、私たちは平等なのです。そして、生まれながらに自由であるということにおいても平等です。だれもが唯1の存在で、それぞれがちがった才能や可能性を持っていることを理解すれば、ひとりひとりを敬う理由もわかることでしょう。」(あとがきより引用)

私たちが暮らす現実は、「世界人権宣言」に書かれた理想と少しずつかけ離れて来ているように思えてならない。戦後の理想としてエレノア・ルーズベルト(1884年~1962年)が、提唱してくれた。彼女は夫フランクリン・ルーズベルト大統領とともに、政治の社会で活躍した女性である。当時としては珍しかった女性の政治活動家であった。夫の急死後、第2次世界大戦後、国連人権委員会委員長となって、「世界人権宣言」を取りまとめた。あれから約70年が経過し、地球上の現実は果たしてどうなっているだろうか。この絵本は、内容が実に深く、随所が東氏の温かみのある絵であふれている。写真撮影された子どもたちの表情が、素晴らしい!

フォトジャーナリストの渋谷氏は、シャッターチャンスを逃さずとらえていて見事で、撮影された人々が今にもしゃべりだしそうである。

この本を大人は勿論、子どもたちにも、是非読んでいただきたい。私は、この絵本を関係する幼稚園・保育園・小学生の学び舎にもプレゼントをした。本に触れる人々が、ハッとして人間としてあるべき姿を見出す事ができるよう願っている。そして、「宣言」起草者の精神を受け継ぐエレノア・ルーズベルト勲章を受章されたあしなが育英会会長の玉井義臣氏が書いているように、「希望の灯ともしび」として輝き続けるよう期待する。「望の灯ともしび」として、行く手を照らしてくれることを願ってやまない。

(『みんなたいせつ』2018年 岩崎書店 1700円+税)