大塚野百合著(教文館刊)『スザンナ・ウェスレーものがたり』小友聡
大塚野百合先生の『スザンナ・ウェスレーものがたり』がようやく出版されました。首を長くして刊行を待っておられた方もいるでしょう。評者もその一人。この2、3年、先生にお会いするたびにスザンナ・ウェスレーの素晴らしさをたっぷりご講義賜わり、出版予定の遅れにじりじりしながら刊行を待っておりました。それだけに、本書の刊行は評者にとっても喜びです。偉人スザンナ・ウェスレーの実像が見事に紹介されている素晴らしい本が、こうして新たに大塚野百合先生の著作に加わりました。スザンナ・ウェスレーは17世紀から18世紀、激動のイ ギリスを生きたキリスト者の女性、牧師夫人です。彼女はイ ギリスの宗教改革とも言うべき18世紀メソジスト運動の嵐 を巻き起こしたジョン・ウェスレーとチャールズ・ウェスレー の母親です。一般にはスザンナは「ウェスレー兄弟の母親」 として知られてはいますが、本書を読めば、スザンナこそが 「メソジスト運動の母」であったことがわかります。このスザンナの波乱万丈の生涯がイギリスの信仰復興の歴史と交差し ながら、感動的に描かれている物語が本書です。
本書を読んで何より感動することは、スザンナがなんと 19人の子供を出産し、その子供たちを次々に失って、かろ うじて10人の子供たちが生き残り、そのうち2人がジョンと チャールズであったということです。しかし、生き残った子 供たちはその後必ずしも幸福な家庭を築くことはできません でした。悲劇の娘ヘティもその一人です。そのためにスザン ナは母親として生涯もがき苦しみ続けました。国が大きく揺 れる激動の時代に、教会の牧師夫人として夫と教会に仕え、 真実に、敬虔に、深い愛情と知性と祈りをもって子供たちを 育み、見守り続けた母親ス ザンナの姿には驚きと感動 を禁じ得ません。このスザン ナの祈りによって、ジョンと チャールズによるメソジスト 信仰復興運動が始まったので す。
本書は信仰者スザンナ・ウェスレーの生涯を紹介する本ですが、著者大塚野百合先生のもう一つの意図は、現在のキリスト教会に対する厳しい批判と提言にあります。それは、今日のイギリスがウェスレー兄弟による信仰復興運動の時代と は隔絶した極めて世俗化した時代となり、同様に日本の教会 も霊性を失い、無気力な情けない状況にあるからです。大塚 先生はスザンナとウェスレー兄弟の霊性の深さに驚嘆し、それと対照的な現代人の罪性を指摘します。「芸に限らず、学問 や仕事に打ち込む人間の姿は美しく称賛に値するものと思わ れています。しかしその熱心さが、他の人間を手段として利用する危険をはらんでいるのです。人間だけでなく、神さえ も利用しかねないのです。しかも利用するのが、誠実で真剣 に生きている人間なのだ」(224頁)。神のために、と誠実に 真実に生きようとしながら、自分自身の栄光と成功のために 神を利用しているとすれば、それはまさしく私たちキリスト者にあてはまる「罪」ではないでしょうか。それに気づかせ てくれるのが聖霊ならば、今こそ聖霊による霊性の復興が必 要ではないでしょうか。本書は、日本の教会の霊的生命の枯渇について警鐘を鳴らし、教会の霊的再生を促している本で もあります。『共助』読者の皆さんにぜひ一読をおすすめしま す。