巻頭言

試みの時代   山本精一

「米国ファースト」を呼号する人物の煽情的(センセーショナル)な言動が、連日、伝えられてくる。その自己顕示的な大言壮語を相手にしている暇はない。しかし、だからと言って、それは無視冷笑していれば済むといった問題では決してない。その強引で暴力的な言動は、歴史に悪夢をもたらす可能性を十分に有しているからである。この人物が強烈に推し進める「自国第一主義」とは、そもそも一国内に限定される話ではない。事実それは、他の国々との間に深刻な軋轢(あつれき)を生じさせている。

貿易関税の問題、グリーンランド・パナマ運河の領有、メキシコ湾のアメリカ湾への改称といった事々は、既にその実例である。またその排外主義的政策、性セ クシズム差別、批判的メディアの言論封殺といった事々は、他の独裁主義国家群とも歩を一にしている。こうして「米国ファースト」とは、この世界中の「自国第一主義」と底で通じ合うものである。

自らの意に従わせようとする威圧的な交渉戦略(deal)には、他者への敬意(respect)というものが全面的に欠落している。そこに私は、対話と討議による相互信頼の醸成という外交の基本を端から見限り、すべてを取引(deal)で片づけようとする、強引にして、自らを省みようとは決してしない一本調子のdeal 主義の根本的脆ぜいじゃく弱を、そして同時にその脆弱を糊こと 塗すべく力を弄もてあそぶ権力者の姿を見る。しかし、そのような人物によって、世界はまるで玉突き状態の玉のような様相を呈し始めている。例えばフランスが自前の核の傘をヨーロッパに広げると言い出したのは、このトランプのdeal に端を発していることは言うまでもない。さらにパレスティナの人々に対しては、彼らをガザから一掃し、その強制的追放によって無人化した跡地を地中海の一大リゾート地にするという妄言を吐いているが、それは、パレスティナ人犠牲者たちの歴史への無恥と冒瀆と侮蔑の言として記憶され続けるだろう。だがその政治家こそが、この時代の主役の一人として、露・中とのdeal のもと、覇権主義的な枢軸(すうじく)を新たに形成しようとしいる。われわれはそのような枢軸による「試みの時代」に直面している。この危険な潮流とわれわれはどう対峙していくのか。

このとき、荒れ野でサタンの試みに遭われたイエスのことを深く覚える。の方に負われ、この方に従って、この時代に誤りなく対峙する抵抗の道を模索し続けるものでありたいと切に思う。

(日本基督教団 北白川教会員)