寄稿

「わたし」と「戦争」との距離~東アジアの若者の対話   濱田史子

 2025年11月16日、東アジアの若者たちによるトークセッションがオンラインで行われました。

 このシンポジウムのきっかけは『1945←2015 若者から若者への手紙』(2015年発行、出版社ころから)という一冊の本です。この本は、15人の戦争体験者の証言と、その証言を読んだ若者たちが戦争体験者たちに宛てて書いた手紙という構成です。原爆や東京大空襲、沖縄戦の体験のみならず、兵士として中国大陸で行った加害行為、医者がいるので安全だろうと自ら進んで731部隊に入ってから実情を知る当時15歳の方、朝鮮半島出身で日本兵として戦地に送られ戦後戦犯として死刑判決を受けた方など、さまざまな体験が綴られています。本の出版から10年経ち、15人の体験者の殆どはこの世を去りました。証言を聴き、書き起こした一人は私の友人です。その友人は「戦争体験者の遺言を預かった」と言っています。直接話を聴くことが年々難しくなる中、そして戦後80年の昨年、友人が「戦後80年手紙プロジェクト」を立ち上げ、2025年の若者に「この本を読んで戦争体験者に手紙を書きませんか」と呼びかけました。

 出版からこれまでに600通もの手紙が寄せられました。今回のシンポジウムは手紙を送ってくれた若者たちが中心となって、日本、中国、台湾、朝鮮半島それぞれの地域にルーツを持つ若い世代の方たちで、「『わたし』と『戦争』との距離」を念頭に、いかに東アジアにおける〝平和〟ひいては世界の〝平和〟をつくっていけるのか、そのために、どのような意識や取り組みが大切となっていくのかを語り合いました。

 様々なルーツ、背景を持つ若者たちの言葉からは、立場によって色々な見え方があることがわかります。若者たちは国や民族を越えて人間同士として認め合おうと発信しました。

 私は実行委員の一人として最後に挨拶をしました。ここにその内容を紹介します。

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 戦争体験者たちの証言からは、決して戦争をしてはいけないというメッセージと受け止めました。

 ひとつデータをご紹介します。「戦争を回避する『新しい外交』を切り拓く」(企画:新外交イニシアティブ、編著:猿田佐世・巖谷陽次郎、かもがわ出版)という本からの抜粋です。この中で、軍拡競争と戦争の関係について、1816年から1965年までの150年間に起きた大国間の紛争をもとに検証を行ったデータが載っていました。ミヒャエル・ワラスという方が発表されたそうです。この研究によれば、対峙する国が軍拡競争を行った場合、82%が戦争に至ったそうです。一方、対峙していても軍拡競争を行わなかった場合に戦争になったのは4%だったそうです。

 今、日本もアメリカもNATOも中国も軍拡を進めています。このままだとかなり高い確率で戦争になってもおかしくないのだと思います。

 軍事力を高めるのは抑止力になるという人たちがいます。国のトップ同士や国民の大多数は戦争をするつもりがなくても、誰かのちょっとした誤解や行動がきっかけとなって武力衝突に発展し、大きな戦争になってしまった例は歴史上たくさんあります。第一次世界大戦もそうでした。今はSNSの時代です。誤った情報の拡散は珍しいことではありません。軍拡を進める今の状況は、過去のデータを見る限り、戦争になるリスクが高まっていると思います。

 防衛省は2032年頃までに、全国で弾薬庫130棟を増設する方針です。京都の祝園(ほうその)、大分などで計画が進んでいます。地元では反対運動が起きていますが、大きなニュースとしては取り上げられていません。2022年12月、岸田政権のときの安保文書改定閣議決定により、反撃能力(敵基地攻撃能力)が保有されることになりまし((注))。それに伴い、今まで自衛隊が持っていなかった長距離ミサイルをアメリカから購入することになりました。ミサイルを買うからには、それを保管する場所が必要です。そのために弾薬庫が増設されることになったわけです。ひとたび戦争となったら、全国につくられる弾薬庫が標的になることも覚悟しなくてはいけないかもしれません。

 軍拡については、今日の対話の中で、国や地域によってもいろんな考え方があることがわかりましたが、軍拡を進めていること自体が戦争に近寄っているように私には思えます。

 軍拡の勢いが止まらない中、どうすればよいのか。今日の皆さんのお話にもありましたように、ルーツや年代の異なる他者と対話する、互いに耳を傾け合うことだと思います。国とか、○○人であるとか、大きな枠で捉えるのではなく、一人の人間、個人の声に耳を澄ますことで、知らなかったこと、気づいていなかったことを知ることができます。例えば、今日も、話の中で「日本は戦後80年平和であったという意識が強い国」という指摘にハッとする思いがしました。

 一人ひとりの声に耳を澄ます、対話を重ねる、その積み重ねによって、想像する力を養い理解が深まることを期待します。それが対立のリスクを下げることに繋がり、一人ひとりを尊重する社会への道筋になることを祈ります。       (第二勝田保育園、誌友)

(注)長距離ミサイルは国内生産も進んでいます。