人格を伴う教育(2010年4月号) 角田 秀明 

 二〇〇九年の高二沖縄平和学習で特に忘れがたい嬉しい出来事があった。第一日目の夜、沖縄文化を代表するエイサー鑑賞をしたが、そこで実演してくれたグループのリーダーが実は本校の卒業生であった。高校卒業後、沖縄の大学、そして大学院に進学し、四月から沖縄に就職が内定しているという。在校生は先輩の力感あふれる舞に感激ひとしおであった。なぜ、沖縄に来たのかと尋ねてみた。高二の「沖縄平和学習」で沖縄の人々の明るさと伝統文化にふれることができた。捨石とさせられた沖縄戦の歴史、戦争のための基地と隣り合わせの不安な生活を強いられながらも、明るさと温かさを失わず伝統文化を大切にしている沖縄に惹かれ、沖縄をもっと知りたいと思った。エイサーや三線の文化保存活動に参加するようになり、今では頼られるエイサーの地区リーダー、三線の腕も相当なものになった。文化を創造し、継承していくことに喜んで取り組んでいる姿に感動した。

  アインシュタインが、精神分析の創始者フロイトに「戦争を避ける方途」を尋ねた。答えは明快であった。「人と人の間の感情と絆を作り上げるものは、すべて戦争を阻む。」「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる。」この卒業生は奇しくも沖縄の文化の発展に自ら関わることにより、戦争を阻み、戦争の終焉に向けて歩み出しているのだ。学校教育の一環として十九年間続けてきた沖縄平和学習を契機として、この生徒の中に当時は自分でも気付いていなかったと思われる自分の秘められた能力が今沖縄で開花しているのだ。卒業して数年後に平和学習の目指すものを見事に体現してくれている姿を目の当たりにできたことは、教師一同にとってこの上ない喜びであった。

  鳩山首相の国会施政方針演説で注目を集めたガンジーの「七つの社会的大罪」の一つに「人格なき知識(教育)」がある。人格教育を忘れてひらすら知識の詰め込みに専念する教育は、本人のみならず社会にとっても取り返しのつかない不幸な結果を生み出すことになりかねない。急速に進む少子化の激流に、ほんの一部を除きほぼすべての私立学校が存亡の危機にたたされている。急激な変化と過当競争の時代のただ中では、数値化される目標に捕らわれるあまり、教師が自分の力で生徒に何かをやらせることばかりになってしまい、生徒の内から力が働きだすまで待てない失敗をしてしまう。

  林竹二は一九八二年の共助会夏期修養会で「教育の根底にあるもの」と題して講演をした。その中で学校教育の再生を期待しつつ警鐘を鳴らしている。「点数で測れないものこそ学校教育の中で一番大事にしなければならないものである。点数で測れないものが一切学校から追放されてしまっている、というのが現状です。その状況から抜け出さない限り、学校は地獄の様相をふかめていくしかない。」点数で測れない目に見えないもの(=人格)を発見する喜びに生きる教育をこれからも目