聖書と脳科学 (2011年 8号) 角田 秀明
「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。どんなことにも感謝しなさい。これこそ、キリスト・イエスにおいて、神があなたがたに望んでおられることです。」(テサロニケの信徒への手紙一 五章一六節―一八節)
最近の脳科学の進歩により、かつてはほとんど未知の部分が多かった脳の仕組みや働きが解明されてきています。この脳科学の知見から、実に多くの事実が明らかになっていますが、最も驚かされたことの一つは、「脳」は人間が幸せになるように既にプログラムされているというメッセージでした。楽しいこと、嬉しいことを経験すると「快感ホルモン」が分泌され、身体に良い影響が出たり、がん細胞をやっつけ、ストレスを解消し、老化を防いでくれるのです。さらに、人間の行動の少なくとも九〇%は習慣によるものですが、習慣的な考え方や気持ち、使う言葉や行動を何度も繰り返していくうちに、轍が道になっていくように脳の神経回路が出来上がっていくのです。
これまでの人生で数え切れないほどのネガティヴ神経回路を構築してきた私にとって、実に嬉しい言葉に出会いました。それは「プラスの上書き」です。マイナス思考の神経回路には「プラスの上書き」をすればよいというのです。脳の神経系は柔軟で、新しいやり方を覚えることができるので意識して考え方をかえさせれば、脳の中にもDNAの中にも変化が起こるというのです。意識的にポジティブなものに注意を向け、嬉しい経験を積み重ねること、楽しいことをすることが即、脳によいことだといいます。そして、脳が一番喜ぶことは.愛の感情―「感謝」「許し」「思いやり」「称賛」だということがわかってきました。これらは、他でもない聖書の中心的メッセージであります。
ベネディクト会のある修道士は次のように言っています。
「感謝の気持ちに理由はありません。一瞬一瞬を満たされた気持で生きること。幸せだから感謝するのではなく、感謝するから幸せなのです。」
人の限界をつくっている一番の要因は、「自分はダメな人間だという思い込み」ですが、本来神が人間を創造された目的は、一人ひとりが与えられた人生を楽しみ、生かされていることを感謝し、すべての被造物とともに神を賛美するためでした。そして、万物の創造主であられる愛なる神は、その目的のためにすべての人間が、不幸ではなく、幸せになるように脳さえもプログラムされているという脳科学からの頼もしいサポートもいただいています。「私の恵みはあなたに十分である」(コリントの信徒への手紙二 一二章九節)と保証して下さる神の力を頂きながら、日常の些細と思えることにも新たな気づきと喜びを発見し、神様から預かっているタラントを活用することを楽しみ、どんなことにも感謝する習慣を身につける工夫をしていきたいと思います。なぜなら、これこそが、神が私たちに望んでおられることだからです。