聖書を生きること 飯島 信

閉会礼拝 説教

「心の清い人たちは、 さいわいである、彼らは神を見るであろう。平和をつくり出す人たちは、さいわいである、彼らは神の子と呼ばれるであろう。」

(マタイによる福音書5章8~9節 口語訳)

今、お読みした御言葉は、大学の聖書研究会で、主宰していた神田盾夫先生から学び得た御言葉です。先生は、「世に平和を愛する人は数多くいる。しかし、平和をつくり出す人はいかに少ないことか」と言われていたことが、半世紀の間、私の心に生き続けています。

それでは、初めての地方での生活から、今考えていることを述べます。私が経験している地方とは、原発被災地で、全町民避難指示が出され、一時廃墟となった福島県南相馬市小高区と、同じく福島県双葉郡浪江町のことで、通常の地方のイメージで捉えることは出来ません。普通言われる人口減少の僻地と違う点は、3・11の津波と原発事故によって地域共同体が壊され、かつてのような街の賑わいを取り戻すことがほとんど不可能な街であることです。住み始めてからわずか9ヶ月しか経ちませんが、この街で今何を考えているのかを短くお話しし、感話の時間に入ります。感話は、全員語る時間はありませんので、質疑応答の時間などに発言されなかった方を中心にお願い致します。

昨日から今日にかけての2日間でしたが、高橋さんを講師にお招きし、さらに若い4人の友たちによって応答の機会が与えられたことを深く感謝しています。今、私たちは、激動と言う言葉では言い表すことの出来ない状況を迎えています。進むべき道を見出すことの出来ない混迷の中にいると言って良いと思います。しかし、たとえ、どれほどの困難な現実が押し寄せようとも、それに翻弄されるのか、それともその現実を受け止め、自分の進むべき道を見出せるのか、そのことが問われていると思います。その分岐点となるのが、軸足をどこに定めるのかです。軸足が定まらない時、私たちは状況の中で右往左往するだけで、結果として時の権力の言いなりになる以外にありません。軸足を定める時、私たちは、どのような現実が押し寄せようとも、冷静に受け止めることが出来るように思います。

では、軸足をどこに定めるかです。そのために必要なことは、第一に、日本が歩んだかつての歴史から何を学ぶのかです。

第二に、その学びから、日本を取り巻く国際情勢の中で、日本が果たすべき役割、日本だからこそ果たし得る役割をどのように見出すのかだと思います。

第一の、歴史から学ぶことは、個の尊厳を守ることなく、公の論理だけで歩む国家は立ち行かなくなることです。民衆の支持を失うからです。

第二の、日本が果たし得る役割は、核の悲惨さを経験している唯一の国民であるが故に、相互不信の行き着く先は核戦争であることを踏まえ、米中対立を緩和する使命を担うことです。緩和するためには、日米安保体制と言う中国・北朝鮮・ロシアに向けた銃口を下ろす必要があります。そのために私たちに出来ることは、世論形成です。ここ半世紀でも、私たちは世論が、国民の力が、政治を変えた事実を目の当たりにしています。70年代から80年代にかけて戦われた韓国民主化闘争を例に挙げるまでもなく、フィリピンでも、台湾でも、香港でも民衆の力が時の政治を変えました。日本はこのままで良いのか、NATOとの関わりや対米従属の道を深めることによって日本の明日はあるのか、その問いをまず自分の中で噛みしめ、そうでないとするならどのような道が求められるのかを考え、突き詰め、語り合い、国内外に発信することだと思います。

私が今、小高・浪江で出来ることの一つは、復興に向かう人々の想いに、平和構築の理念を加えることです。そのため、この夏には、小高夏期自由大学を実現出来たらと思います。聖書は読み物としてではなく、聖書を生きる時に力となります。

御言葉を生きたいと思います。祈りましょう。


【資料】小高夏期自由大学

【目的】原発被災地である福島県南相馬市小高区(旧小高町)復興の現在地を知り、脱原発と平和への道筋を描きつつ、内外との交流を深める。

■日 時:2023年9月16日(土)~18日(月・休)

■会 場:日本基督教団小高伝道所(福島県南相馬市小高区本町1―47)

■宿泊・食事・交流会場:双葉屋旅館

(小高区東町1 ―40・会場から徒歩5分)

■呼びかけ人:

林 勝典(小高行政区長連合会 会長)

小林友子(小高商工会女性部部長。小高教会幼稚園16回生)

瀬下智美(ヨガ・太極拳インストラクター小高教会幼稚園37回生)

飯島 信(日本基督教団小高伝道所 牧師)

■定 員:小高区内20人・小高区外15人(県外も含む)

■問い合わせ先(小高伝道所牧師 飯島信 携帯)

:080 ― 7010 ― 2170

■プログラム

【9月16日(土)】

・13:00―14:00 受付

・14:00―15:30 基調講演 高橋哲哉さん(哲学者 東京大学名誉教授)

「私たちの現在地 ― 今、世界で、福島で問われていること」

 ・15:30―16:00 質疑応答

 ・16:00―16:30 映像「あの時、何が起きたのか」

 ・16:30―18:00 パネルディスカッションⅠ 「小高に戻り、考えたこと。」

 ・18:00―18:30 質疑応答

 ・18:40―19:30 夕食

 ・19:30―21:00 交流会①

【9月17日(日)】

 ・7:30―8:30 朝食

 ・9: 00 ―11:00 パネルディスカッションⅡ 「小高の再生を語る。」

 ・11:00―11:30  質疑応答

 ・11:30―11:45 写真

 ・12:00―13:00 昼食

 ・13:00―14:30 スタディーツアー 「小高の被災地を知ろう。」

 ・14:30―16:30 自由

 ※ 15:00―16:00 浪江伝道所主日礼拝

 ・16:30―18:00 分科会 「2つのパネルディスカッションから 考えたこと。」

 ・18:10―19:00 夕食

 ・19:00―21

:00 交流会②

【9月18日(月・休)】

 ・7:30―8:30 朝食

 ・9:00―9:45 「分科会発表」

 ・9:45―11: 15 全体懇談会「小高再生への課題と現実を語ろう。」

 ・11:15―11:45 まとめの時

 ・12:00―13:00 昼食・解散

※オプショナルツアー:双葉郡浪江町請戸(うけど)小遺構、東日本震災・原子力災害伝承館、廃炉資料館など。

(日本基督教団 小高伝道所・浪江伝道所牧師)