追悼

思い出 小菅あけみ

伝道の書 コヘレトの言葉 3章1~2節

何事にも時があり 

天の下の出来事にはすべて定められた時がある。

生まれる時、死ぬ時 植える時、植えたものを抜く時。

小菅敏夫が神様の御許に召された今、この言葉が常に私の心に聞こえてきます。死ぬ時も神様のお考えの時があって、それを受け入れる気持ちになりました。

キリストと出会い大学時代に洗礼を受けた敏夫は、大学で出会った私が、洗礼を受けたことを大変喜んでくれました。大学院卒業後、彼はハーグに留学し、英語礼拝をする教会で5人の子供がいるユダヤ系オランダ人のアルボス一家と出会いました。

私はその半年後、大学を卒業して彼とオランダで結婚したのですが、アルボスさんは私達の親代わりをして、教会の聖歌隊みんなが祝ってくれました。日曜礼拝後はよくアルボス家に行き一緒に大家族での食卓を囲みました。キリストにあってみな兄弟姉妹ということを実感しました。

家族として受け入れてもらった経験は、その後の私たちの人生での大きな支えとなりました。帰国後は海外からの学生や伝道者の皆さんが、大勢我が家にホームステイをして楽しい交わりの時を持つことができました。神様が私たちに送り込んでくださったゲストだと思っています。アルボス家とは今もなお家族の関係が続いています。

その当時オランダでは戦争の傷跡が残っていて、文化や価値観の違いから心が痛む思いをすることがありました。そんな時彼に話をして泣いてしまったことがありました。何も返事がないのでどうしたのかと思って見ると、彼自身の目に涙が溜まっているので、思わず私の涙が止まってしまったことを覚えています。辛い時に一緒に泣いてくれる相手がそばにいるのはどんなに幸いなことか、神様に感謝しました。

帰国後は、戦争未亡人だった彼の母が一生懸命働いて建てた家に住むことができました。子供たちがまだ小さかった頃で、彼は片道2時間離れた大学で教え、日曜日は教会の役員として忙しくしていました。大学が休みになると、彼は海外での学会や南太平洋の島の教育環境改善のプロジェクトで出掛けていました。子ども3人を車に乗せて成田空港まで迎えに行くと、彼は嬉しそうに文化の違う友人たちの話をしたり、お土産に手荷物で持って帰ってきたカバの酒を入れる重たくて大きな杯を見せながら話をしてくれました。また、大学の休みになると自宅には、研究室の学生さんたちがやってきて、彼を中心に楽しそうに食卓を囲んでくれました。

柏に住むようになってから我が家にはいつもペットが一緒で、彼とは信頼関係で結ばれているようでした。動物は相手の優しさが直感でわかるのでしょう。最初の3匹はイヌ、そのうちネコになり、最後のクロは20年以上も一緒に暮らし、彼の腕の中で息を引き取りました。

神様からテノールの声の賜物をいただいた彼は、大学時代のグリークラブの仲間と男性カルテットを結成し、日本各地で歌うことを楽しんでいました。夜遅く遠征から帰ってきても駅からの帰りの車の中で、疲れているのに、何とも言えない嬉しそうな表情で「楽しかった……」と話していました。良いお仲間に恵まれ、歌のハーモニーは彼の元気の源になっていたのでしょう。昇天後、彼の友人がカルテットの歌声を4曲、YouTube で聴けるようにしてくれました。グループ名OGQ(オールデン ゲイト カルテット)が4人のメンバーの合計(75歳×4)300歳の時の記念コンサートからです。(広島市にて 2015・10・31)

https://www.youtube.com/watch?v=bpqOjSrHv3k(外部リンクへ移動)

大学を退職すると、彼は地元の柏で平和憲法9条を守る運動に力を入れるようになりました。戦争で海軍だった父を亡くし、苦労して3人の子供を育て上げた母を見ていて常に心に抱いていたことでした。憲法記念日には憲法集会を企画し、毎月の駅頭宣伝や署名運動、また柏市民憲法連絡会を立ち上げ、コロナの前まで代表を務めました。小菅の葬儀の後、9条の会の皆さんが「偲ぶ会」をしてくださいました。(平和のためには)「できる事はすべてやりましょう」という彼の言葉が心に残っているとのことでした。

また、海外の友人や留学生たちがオンラインで彼の思い出を語ってくれました。

「先生であると同時に、支援者、友だち、日本のお父さん」「人に親切に、そして赦し、人を裁かない生き方を実行」「彼は神を愛し、神は彼を愛した」……今頃彼は天国でくしゃみをしているかもしれません。

コロナにより多くの人たちが家の中での生活になりました。身体の不調を感じ始めていた彼が、それまで忙しく体を酷使していたあと、病院通いをしていたとはいえ、一緒に二人で過ごせる時間を神様からプレゼントしていただいたことに、私は感謝しています。

今まで楽しい時も大変な時も神様のみことばに助けられ、二人とも活かされてきました。

すべての神様のわざには時がある……

今、敏夫は神様の御許に帰りました。私たちも神様の時に従っていきたいと願っています。

今までの皆様との暖かい交流とお支えに、心から感謝しています。これからもキリストを通して皆様とのお交わりを、どうぞよろしくお願いいたします。(2024年2月)

(日本基督教団 柏教会員)