平和構築に向けて―「平和を求める日本女子大学有志の会 活動の記録」濵田史子

今から7年前の2015年、当時の安倍政権が国会に提出した安全保障関連法案に抗議する全国的な運動の高まりのなかで、この運動に呼応した日本女子大学教員有志により、「平和を求める日本女子大学有志の会」が結成されました。多くの卒業生からも賛同の声があがりました。私もその一人です。残念ながら、法案は成立し、その後も自衛隊の外国軍との共同訓練、護衛艦の実質的な空母化閣議決定等が行われ、アメリカへの兵器ローンが増大していく中、改憲論議も進められてきました。こうした動きに対して平和有志の会では、大学という場を生かし、何が問題か、考え続ける学習会を展開してきました。積み重ねられた学習会や講演会、映画上映会は実質20回となり、この積み重ねを広く発信したいという思いのもと、「活動の記録」を作成しました。

企画内容は、沖縄、福島、原発、憲法、人権など多岐に渡ります。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻の中、憲法に緊急事態条項を設けることについて衆議院憲法審査会で論議されています。また、防衛費をGDPの2%に増やすことを自民党は目標にしています。今年度の予算5.4兆円から10兆円を目指すということです。この状況下、「改憲」で問われているものは何か、今までの学習会の記録から確認し、平和構築に向けて考えるヒントにしたいと思います。

憲法を語る上でおさえておきたいこと、それは立憲主義です。立憲主義とは人権を保障するために国家権力を縛ることです。明治時代、ヨーロッパに学んだ伊藤博文たちは、立憲主義を念頭に置いて大日本帝国憲法を作りました。伊藤博文の言葉が残っています。憲法を創設する精神とは「第一に君主の権限を制限する。第二に臣民の権利を保障する。」

自民党は2018年に改憲4項目を発表しました。自衛隊の明記、緊急事態対応(いわゆる緊急事態条項)、合区解消、教育の充実、この4つです。特に注目したいのは、「自衛隊の明記」と「緊急事態条項」です。

まず、「自衛隊の明記」について。明記されることによって、自衛隊の活動が堂々と広く行われることとなります。活動範囲は広がり、軍事予算制限が取り払われ、社会保障費等の削減、基地のための土地収用、さらには徴兵制への道が開かれる可能性が生じます。「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」という徹底した戦争を否定した現行憲法9条の死文化に繋がり、武力行使の歯止めが失われます。過去の侵略戦争への反省から、戦争をしないと世界に約束した日本への信頼は著しく損なわれることとなります。

次に「緊急事態条項」について。緊急事態条項とは、国家緊急権を憲法に盛り込むものです。国家緊急権とは、非常事態において、国家権力が国家の存立を維持するためと言って、立憲的な憲法秩序、人権の保障と権力の分立(立法権、行政権、司法権)をやめてしまう制度です。国家緊急権は多くの国で軍人や政治権力に濫用されてきました。非常事態でないのに非常事態だという、いつまでも非常事態を解かない、不当な逮捕・拷問・殺害等が行われる、裁判所は政府に遠慮して人権保障の機能を持たない、ということが行われてきました。現行憲法には国家緊急権はありません。日本国憲法を審議した帝国憲法改正案委員会で「国家緊急権を設けないのはなぜか」と問われた時の金森国務大臣の答弁です。「第一に民主主義。民主主義を徹底させて国民の権利を十分に擁護するためには、非常事態に政府の一存で行う措置は極力防止しなくてはいけない。政府の一存でできるというものをやると民主主義が大きく壊れてしまう。二番目は立憲主義。『非常』という言葉を口実に、政府の自由判断を大幅に残しておくと、どんな憲法政治でも破壊されてしまう。三番目は憲法上の制度。特殊の必要があれば臨時国会を召集する。衆議院が解散中であれば、参議院の緊急集会で対処できる。四番目、法律などで事前に準備しておく」。このように国家緊急権を設けることの危うさを当時の政権は認識していました。国家緊急権があると、権力者は自らに都合の良い仕組みを作ることができ、歯止めが利かなくなります。

「緊急事態条項」をもって内閣が法律と同じ効力を持つ政令を作り、国民の権利を制限し、海外での武力行使が可能な自衛隊が存在することの意味を考えます。

憲法12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。「不断の努力を普段から」をかみしめています。

(第二勝田保育園)