詩集紹介:古川 彩 著 詩集『大地青春』髙橋 紀渚

彩へ。詩集『大地青春』の出版おめでとう。装丁もすてきで、いい手触りの本だね。手を使っていっぱい学んだ、学園の三年間にぴったりだ。

言葉の好きな人なら誰でも、本の出版は悲願なわけで(自論)、とってもうらやましいです。しかも詩集だなんて。言葉はときに宝石になるけれど、彩、真実の原石がきらりと光るのを、捉えては覚えて、あとでそおっと掘り出して、仕事おわりに眺めて、お風呂あがりに磨いて、枕の下に入れて寝ていたんでしょう? リンちゃんも驚いていたよ、「いつの間に本を」って。

いのちの言葉を届けるという、人類に固有かつ普遍の願望(自論)を叶えはじめた彩に、しかし不思議と、嫉妬の気持ちがないのです。他人の不幸が蜜の味なら、詩集の出版なんていうアチーヴメントは、ヤキモチでクッションをソファに投げつけても足りないくらいで、同居する弟のひとりやふたり、飛んでくるクッションに悩まされる数日を送ってもおかしくないはずなのに。もっとも、うちにクッションも二人目の弟もないのでしたが。

さて、彩とわたしは、同じ水を吸い上げて生かされている友だち同士の木です(とある人が言っていました)。言いかえれば、いのちの源が同じ。いのちの栄養が同じ。その源とか、栄養とか、水とかにあたるものがなんなのか、それは秘密です(説明が面倒臭いだけかも)。もちろん、その水は彩やわたしのものではないから、だから彩は、詩を書くのではないですか? いのちの養分を、確かめるために。そしてその養分が、他の人のことだって生かす「本物」だから。いのちになら、伝わるはずだから。全然違ったら、今度教えてください。 彩とわたしは、わたしたちの青春の舞台、叶水の小さな変わった学校その名も基督教独立学園で、十年ほど前に出会いました。「思春期の多感な時期」を、寮にみんなで住んで、人と自然に囲まれて、祈りに守られて、過ごしたのです。

独立学園は山形県小国町の叶水という、雪深い地にあります。ひと学年の定員が二五人という、教職員を合わせても百人に満たない、全寮制の小さな普通科高校です。無教会キリスト教の提唱者・内村鑑三の弟子、鈴木弼美(すけよし)が1948年に創設しました。「読むべきものは聖書である、学ぶべきものは天然である、為すべき事は労働である」という独立学園の「三本柱」は、内村の言葉をもとに立てられていて、その営みの中心にあります。教育の理念は、「『神によって作られた人格』の尊重を自覚せしめ、天賦の個性を発展させ、神を畏れるキリスト教的独立人を養成する」ことです。

テレビやスマホは学園生活にありません。洗濯物は各自手や足で洗います。炊事は曜日ごとにメンバーを決め、みんなの分を作ります。玉ねぎの皮むきも、卵を割るのも、人参の千切りも、全員分ですから、卒業後一人暮らしを始めると、自分しか食べないお味噌汁のために、人参を十本切るなんていうミスも人によっては発生するようです(流石にどこかでオカシイと気づかないものなのか……?)。「三大部活」は畜産部、園芸部、米部です(大豆部や製パン部に怒られそう?)。

彩の詩を読んで思い出します。ああそうだ、畑では、畜舎で

は、食堂では、こんな匂いがしたなぁって。朝日の匂いと夕日の匂いを、季節ごとに吸い込んだなぁって。『大地青春』は、みんなが、イロイロあっても一緒にいた日々です。生きていくのに、他者と祈りと歌を必要とする人たちが、たしかに共に生きている場所です。人間が人間らしく、もがいている場所です。わたしたちが「けっこう前の卒業生」になってしまった今も。この間まで女子寮舎監をさせてもらって、それだけはたしかめてきたよ、彩。

旅立ち

未だ雪深い弥生の空に

食堂から漏れるコーラスの声が

高く高く吸い込まれていく

我が学び舎の

三度目の冬の終わりの始まり

人と出会い人と生き

土に学び土に生き

出会いの大きさを捉えられず

身の内の空っぽを見つめたこともあった

その都度

ほんの少しずつ

心に沈んでいくものはあって

それは消えてなくならないと

分かってしまった

たったひとつ探究し得た 真理の片鱗

世に独り立つ時

その生き方が問われよう

幾度の涙で清められた眼差しの本当と

山の懐の本物を

ただ抱きしめていく

小さく満たされて

丁寧さに誠実で在ろう

こころいっぱい

彩、記憶と真実を、宝石にしてくれてありがとう。わたし、生きることにずっと不器用でいたい。傷つく心の感受性を、だいじにしたい。幼稚園にあがったどこかのたえちゃんが、健やかに育っていく世界を、守らなくてはならないもの。広げなくてはならないもの。彩が大人になっても、キナは大人にならない。キナが大人になろうとしていたら、彩が引き留めてね。この間、ひとり叶水に向かう米坂線の中で、彩からのLINEに返信を打ちながら止まらなかった涙の理由は、今も言葉にならないけれど、あの涙も彩の詩みたいに、宝石みたいだったってことで、いいかなぁ?

出版社名:書肆犀(しょしさい) 1000円+ 税

(国際基督教大学大学院修士課程)

【著者略歴】古川 彩

1997年生れ、岐阜県出身。15歳まで岐阜市郊外で育つ。本著第一部「大地青春」の舞台である基督教独立学園高等学校(山形県西置賜郡)へ進学、3年間の寮生

活を送る。20年、南山大学人文学部人類文化学科卒業。ホテル勤務を経て、22年春より日本語教師の道へ。現在: 京都市在住。

2021年第64回「農民文学賞」受賞