寄稿

神様の恵み 陸 久美子

私は、35年前に愛農消費者の会に入会し、全国愛農会の野菜を中心とした食品を購入しています。息子がアレルギーでその原因は食べ物ではないかと気が付き、安心できる食べ物を求めて入会しました。

そうして愛農会の野菜やお肉などを毎週いただいていました。息子が小学校5年生の夏休みに福島県郡山市の生産者を訪ねました。そこは米、野菜を作り、そして当時は鶏をたくさん飼っている農家でした。畑と田んぼは広い丘陵にあり、新幹線の線路が一直線に伸びていて、ハヤブサ号が走っています。農薬、除草剤を撒かない土地なので草が生い茂っていて、みんなで草刈りをしました。特に驚いたことは夕飯の時にみんなでお祈りをして「いただきます」を言ったことです。それまで持っていた農家のイメージとはかけ離れていて、神様を信じる一家だったのです。このことをきっかけに愛農会に深くかかわることになりました。

三重県に本部がある全国愛農会には、二つの祈りがあります。一つは世界平和と愛と共同の村づくり、もう一つは、神と人と土を愛する三愛精神です。国内だけでなく、インド、韓国などアジアの農民との連帯もしています。毎年、韓国と日本で交互に韓日平和交流会が開催されています。何度か参加をして、韓国の方々との有意義な出会いもありました。そして、日本一小さな私立の農業高校、愛農学園農業高校を持っています。

愛農高校は全寮制で、聖書を土台とし、土に根ざした平和で豊かな暮らしに価値を置いています。生きる力を培う教育をし、自分たちの食べるものの70%を自給しています。

2月23日行われた「どうする? 地球の暮らし方」という映画とトークイベントに一泊で参加してきました。朝は6時20分にチャイムが鳴り、7時から朝食です。牛や豚や鶏の世話をする係、食事当番の人たちはもっと早く起きているでしょう。一緒に朝ごはんをいただきましたが、早朝にもかかわらず、みんないい顔をして、てきぱきと動いていました。

昨今は温暖化などの気候危機が進み、農業の考え方も変わってきています。大規模で農薬や化学肥料を使って、売れる作物をたくさん作る農業から自然にかなったやりかたで、環境を守りつつ作物を育てる農業に世界の関心が向かっています。例えば不耕起栽培という土を耕さないやり方があります。私も我が家の庭で野菜を作っており、以前は耕していましたが、今はやめました。耕すとミミズを切ってしまうことがあります。そんな時は申し訳ない気持ちでいっぱいになります。ミミズがたくさんいる土地は、ミミズが土を耕してくれているのです。

カナダのスザンヌ・シマードという女性が書かれた『マザーツリー ― 森に隠された「知性」をめぐる冒険』(ダイヤモンド社、2023年)という本があります。カナダの豊かな森林の中で育ち、材木会社で働いていた彼女は、森を伐採し、その後地に売れる種類の木だけを植えることに疑問を持ちます。なぜなら自然に生えた木はしっかり成長するのに対して、森を伐採した土地に同じ種類だけを植えた苗木は弱々しくて枯れそうだったからです。それぞれの根を見比べるとあまりの違いに驚きます。そして、幼いころに森で得た直観に導かれるように研究を重ね「森に隠された〝知性〟」について、これまでの考え方を覆す発見をしたのです。

その発見とはいろいろな木が隣り合って育つ森の地下では、さまざまな菌根菌が菌糸を網の目のように張り巡らし、ネットワークを形成しているということなのです。そして、最も古い老木「マザーツリー」が、周囲の若木を助け、干ばつ、虫の害、火災などに対する長い経験の中での知恵とそして、栄養までも彼らに与えて、分かち合う関係を作っているのです。

野菜もしかりで、土の中で情報を伝えあっています。わたしの畑でとれた小松菜の根っこは抜くと立派で、雨上がりの蜘蛛の巣のように透き通ってきらきら輝いていました。こういう野菜を食べていると健康な体になるのではないでしょうか。この森のネットワークは人間の脳の神経物質の伝達ネットワークとも似ているといわれます。

神様はありとあらゆるものが協力するように造られたのです。申命記8章10節に「あなたは食べて満足し、良い土地を与えてくださったことを思って、あなたの神、主をたたえなさい」とあります。

長年、福島の野菜をいただいていましたが、3・11東日本大震災でその野菜が届かなくなりました。震災当時は大混乱でしたが、落ち着いてくると農業を再開されました。原発事故のため放射能測定器を導入し、とれた野菜を測っていました。土の中の放射線量は高いのに不思議と基準よりずっと少なかったのです。化学肥料を使わずに自然栽培を長年してきた土地なので、野菜は土の栄養で十分育ち、放射能などの化学物質を吸収しないのだろうという話でした。震災の年に収穫した米の中に、放射線量が高い米があり、その地域一体の米はすべて廃棄されるということがありました。福島の生産物というだけで売れない風評被害の時期です。特に愛農会の消費者は安心安全を求める

人たちなので、多くの人が離れていき、農家の方は大変悲しんでいらっしゃいました。作る方は安全と思って作っても、買う方はそれを信じられなかったのです。

そういう状況が続いていましたが、2018年に福島県二本松市の生産者である大内信一さんの畑にソーラーパネルを立て、発電と作物を作るという話を聞き、パネルサポーターとなり竣工式に駆け付けました。これは全国でも珍しい営農ソーラーと呼ばれるもので、畑で作った電力を電力会社に売り、その下で大豆、カブ、えごまなどの野菜を育てます。全国初ということで、農地は農業のみに使う目的だから認めないと市や県から言われ、法律をクリアすることが大変だったようです。何度も壁にぶち当たり粘り強く解決策を探した結果、実現に至りました。

それからは、大内さんの息子さんとお仲間の近藤恵さんとで電力会社を立ち上げ、再生可能エネルギーの先進地として今では注目を集めています。ドイツなどの自然エネルギー先進国と情報交換しながら事業を展開されています。

震災で土地を手放し、仕事も失った近藤さんは「不思議な導きで新たなスタート地点に立つことができた」とおっしゃいます。それは愛農高校を卒業したばかりの青年との出会いです。彼は震災で福島を離れましたが、福島の生産物に対する風評被害を耳にし、故郷の力になりたいと農業を目指されました。それは小さいころに、ご家族と一緒に大内さんの畑での収穫祭などに参加されていた体験があったからです。その彼と一緒に原発に頼らない電力づくり事業を拡大しています。

大内信一さんは、震災のすぐ後の苦しい時に「神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます」(コリントの信徒への手紙 一10・13)との御言葉を消費者の会会報に寄せられましたが、その御言葉通りのことが実現したと思います。

近藤恵さんは「神よ、守ってください あなたを避けどころとするわたしを。……測り縄は麗しい地を示し わたしは輝かしい嗣業を受けました。」(詩編16編)の御言葉を幾度もかみしめて福島が、そして日本が、麗しき地となるよう耕し続け、よい実を結ぶ楽しき地にしたいと願っていらっしゃいます。

愛農会と福島で放射能災害にあった方々とのかかわりで示されたことは、神様が創られた自然界のすばらしさと、その自然を相手に希望を持って生きる人々の姿です。今は戦争や気候危機などの不安がたくさんありますが、この世は悪が支配する世の中ではなく、神様が支配なさっていることを心に刻み、希望を持って歩んでいきたいと思います。

(日本基督教団 調布教会員)