移住女性とShall we yoga【ソウルからの便り】 崔秀蓮
崔秀蓮さんとは1990年2月、日本語学校の個人教授の教室で初めて出会い、京都の小笠原亮一先生を紹介したのがきっかけで共助会のみなさんとの交流が始まりました。韓国で開かれる韓日基督教共助会修練会には毎回参加し案内や通訳など、多大な役割を担っている韓日友情の模範たる友であります。(金美 淑)
はじめに
私がヨーガを始めたのは1990年代後半、20代の頃でした。当時の韓国ではヨーガはまだ広く知られておらず、教習所もほとんどありませんでした。趣味として始めたヨーガは、次第に本格的な学びへと発展し、インドのカイバルヤダーマヨガ大学で指導者課程を修了しました。その後、韓国の西ソ 江ガン大学大学院でヨーガ哲学を学び、修士号を取得しました。
現在、韓国ではヨーガは都市部だけでなく地方でも人気のある大衆スポーツとなり、カルチャーセンターなどで安価に学ぶことができます。
ヨーガを教える場としてのシェルター
私がヨーガを教えているのは、結婚を通じて韓国に移住し、シェルターで暮らすことを余儀なくされた移住女性たちです。彼女たちは韓国語や生活習慣に不慣れなまま、家庭内暴力や離婚など様々な事情で居場所を失っています。
シェルターは、そうした女性とその子どもたちが一時的に安心して暮らせる場所であり、法律・医療支援、韓国語教育、文化プログラムなどを提供しています。私のヨーガ授業もその一環として行われています。
国際結婚の現実と移住女性の困難
韓国ではこの30年間、経済が発展するにつれて国際結婚が急増しており、特に韓国人男性と外国人女性との結婚が多くなっています。多くは結婚仲介所を通じて、経済的に困難な国の女性と結婚するケースであり、人格的な出会いではなく〝売買婚〟と呼ばれるような実態があります。
ある番組では、韓国人男性が外国でお見合いを行い、顔だけで相手を選び、数日後に合同結婚式が行われる様子が放映され、衝撃を受けました。こうした結婚の背景には、農漁村や低所得層の男性だけでなく、都市部の中産層にも広がっている現状があります。
移住女性たちは、韓国語や文化を知らないまま結婚し、監禁や性的・経済的虐待、暴力など深刻な問題に直面しています。毎年、夫やその家族によって命を奪われる女性もいます。
こうした差別は子どもにも及び、母親が東南アジア出身であることが知られると、学校でいじめの対象になることがあります。母親が韓国語を理解できないため、子どもの学業にも支障が出ており、大学進学率も低い傾向にあります。
ヨーガ授業の様子と目的
シェルターは2階建ての広いアパートで、子どもを含めて約12人が暮らしています。実務者は5人、女性たちは20〜30代が中心で、子どもと一緒に入所するケースが多いです。授業は居間で行われ、参加者の韓国語能力は様々です。ほとんど韓国語が分からない女性もいるため、幼児向けのように動作を見せながら簡単な言葉で説明しています。韓国語が堪能な女性が通訳をすることもあります。
授業は予測不能で、入退所が頻繁なため、参加人数も日によって異なります。母親は原則として子どもの世話をしながら授業に参加します。赤ちゃんが泣けば授業を中断して部屋に戻り、ベビーベッドを揺らしながらヨーガを続ける母もいます。
子どもが母を探して泣き出すと、他の子どもも泣き始め、授業は騒然となることもあります。時には授業内容を急遽変更し、子ども向けのマッサージに切り替えることもあります。休みの日には小学生の子どもが参加することもあり、母親と離れて暮らす女性は授業中に涙を流すこともあります。
ヨーガ授業の目的は、ストレスに疲れた女性たちに休息とやすらぎを提供することです。難しい動作は避け、基本的な姿勢や休息のポーズを中心に、心身のリラックスを促しています。
参加者の国籍とベトナム女性の現状
参加者の国籍は多様で、ベトナム、中国(朝鮮族含む)、ウズベキスタン、モンゴル、カンボジア、タイ、フィリピン、日本などのアジア人女性がほとんどで、その他 ブラジル、スイス、ボリビア、モロッコなどの女性にも出会ったことがあります。
現在は、珍しく参加者が全員ベトナム出身の女性です。シェルターで10年働く実務者も、ベトナム女性だけのケースは初めてだと話しています。ベトナム女性は韓国人と外見が似ており、儒教的価値観を共有し、勤勉で家族への責任感が強いため、韓国人男性に人気があります。韓国では〝外国人新婦〟の代名詞となってしまったベトナム女性ですが、ベトナム戦争では韓国が軍を派
遣し、多くの民間人を虐殺した歴史があります。50年後の今、また別の形でベトナム人女性が犠牲になっている現実があります。
ヨーガを通じた希望と癒し
私は実務者ではなく、ヨーガを教える立場なので、彼女たちが韓国に来た理由やシェルターに避難した事情は知りません。私的な質問はせず、彼女たちの尊厳を守るよう心がけています。
それでも、シェルターで暮らす女性たちには、明るく柔らかな雰囲気が感じられます。問題が少しずつ解決し、同じ境遇の仲間と心を通わせているからかもしれません。
入退所が頻繁なため、別れの挨拶もできず突然姿を見なくなることも多いですが、現在のベトナム女性たちはほぼ1年近く継続して授業に参加しており、技術も向上しています。
これまでの目標は休息と健康回復でしたが、今は彼女たちがヨーガ指導者となり、同じ出身国の女性や韓国人を教える未来を期待するようになりました。理解力も高く、真剣に取り組む彼女たちなら、周囲の支援があれば十分に可能だと思います。
韓国社会が経済成長とともに意識が変化し、韓国人女性が家庭内の一方的な奉仕を拒むようになると、その役割が外国人女性に押し付けられるようになりました。時代や国が変わっても、貧しい国の若い女性が最も脆弱な立場に置かれ、犠牲を強いられる状況は変わっていません。
韓国社会の見えない場所で働き、子どもを育て、この社会を支えている移住女性たちが、ヨーガとの出会いを通じて少しでも慰めと癒しを得られることを願っています。 (フリーランスヨーガ指導者、誌友)
